風の馬〜天使の贈り物〜

写真:颯馬 写真:颯馬 写真:颯馬

 

 ながい一日 (written in 1998.6.12 )

 
6月12日、朝8時。
病室に着くとすでに準備は整っていて
「あぁ、本当に手術するんだ」
そう思った途端、もう涙が止まらなくなった。
枕もとには看護婦さんが前夜に心を込めて作ってくれたカード。


颯ちゃん、
パパが「颯馬がんばれ」って言っているのに
ママは何も言えなかったね。
ママもパパも颯ちゃんも泣いちゃったね。
手術のために前日の夜からミルクが飲めなくて
お腹すいてたからじゃないよね・・・


 

 
あっという間に30分間の面会時間はすぎ、
最終準備のため、ママとパパは廊下で待機。
しばらくして手術室に向かう颯ちゃんと看護婦さん達が来たね。
手も口も固定され、泣くこともできない。
麻酔もかかりはじめていた。
それでもじっとこっちを見てたね。
なのにママはやっぱり何も言えなかった。

たくさん言いたいことがあったのに、
いっぱい励ましてあげたかったのに・・・

そして ただ じっと見つめあって、
颯ちゃんは 手術室へと消えた。


 

 
長い・・・とても長い時間。

午前中は広いセンター内を見て回ったりして過ごし、
ランチは1階のレストラン。
午後は同じ2階の病棟の誰にも会いたくなくて、3階の待合室にいた。
それでも夕方までには揃ったパパとママの家族の前では
元気なつもりでいたよ。

終了予定の時間がすぎ、
夜になっても手術はまだ終らない。
手術室の前でママは「颯ちゃん、がんばれ!」って、
ただ祈るだけだった。


 

 
夜8時、病棟の担当医師にパパとママが呼ばれた。

「現在、人工心肺を外して様子をみている。
 出血が非常に多く、コントロールが難しい。
 血圧や酸素の状態はぎりぎりのところ。
 状況は非常に厳しい。」

成功率はきわめて低いと、わかっていた手術。
けれど、命を助けることができる唯一の方法だった。

その部屋を出たらパパが泣いちゃった。
颯ちゃんは今がんばっているのにね。
だけどママはね、先生から危ないと聞いた瞬間、なぜだか
「あぁ、颯ちゃんは大丈夫だ」って直感したの。
きっとママにだけ颯ちゃんの声が聞こえたんだね。


 

 
それからさらに3時間あまりが過ぎた、夜11時30分。
病棟担当医師が走ってきた。
「今CCUに戻ります。落ち着いたら面会できます。」

ほらね、思った通り。
でも、体中の力がぬけちゃった。

やっとみんなに笑顔が戻った。


 

 
30分ほどで、担当の看護婦さんに呼ばれた。
15時間もの大手術を乗り越えた颯ちゃん。
真っ白な顔で、たくさんの機械に囲まれて、
先生も看護婦さんもたくさんいて、
まだまだ目が離せない状況で・・・
だけど、それでも大変な手術から帰ってきた。

この夜のパパとママはセンター内で待機。
CCUのそばにいたから、
きっと颯ちゃんも安心だったよね。

がんばったね、本当にがんばったね。
たくさん眠って、次に起きたら
大好きなミルクが飲めるよ。

おやすみ 颯ちゃん・・・