+----------- 風の馬〜天使の贈り物〜

風の馬〜天使の贈り物〜

写真:颯馬 写真:颯馬 写真:颯馬

 

 永遠に (written in 1998.6.30 )

 
1997.6.12(木)大手術を乗り越えた。

金・土・日と容態に変化はなく、
だけど一日に2回午前と午後、たった数十分の面会だった。

少しづつ顔色も良くなってきて、
でも ずっと眠ったままの颯ちゃん。

ママ達は小さなラジカセを買い
「颯ちゃんがんばれ」ってたくさん吹き込んで、
ママ達がいない時にかけてもらったね。

眠ってるはずなのに、ちゃんとママの声が分かってた颯ちゃん。
ママがいつもがんばれって言うから、素直に、
「がんばらなきゃ」って、小さいのに一生懸命だったね。


 

 
1997.6.16(月)
容態は安定しているからと言われたパパは会社に行き、
午前の面会はママ一人だった。
そしてこの日の午前中に、開いていた胸を閉じることになり、
ママだけそのまま待機となった。
でも心臓に負担がかかり、結局少しだけしか閉じることができなかった。

大丈夫、少しずつよくなる・・・
そう自分に言い聞かせて一度 病院を出た。


 

 
買い物をして家に帰ったママを待っていたのは、パパからの電話。
「病院からすぐ来てくれって会社に電話があった、これから行く」

うそ・・・
だって、たった今 会ったばかりだよ?
頭の中が真っ白、それでもふらふら電車に乗ってた。

だめだよ、颯ちゃんはこれからうんと大きくなって、
いっぱいいっぱいいろんなことするんだよ!
パパやママとずっと一緒なんだよ!
すぐ行くからね、大丈夫だよ、
退院してキャンプ行くんだもんね、大丈夫だよ!

神様・・・命を取り替えて下さい!!


 

 
ママが先に到着し、先生は経過を説明してくれた。
でも何が何だかわからない。
颯ちゃん、ママだよ!・・・そう言いたいのに、声がでない。

「午後3時、急に容態が変わり、
手を尽くしたが もうどうしようもない」

そんなこと言わないで!
颯ちゃんを助けて!
だけど 涙があふれてどうしても言葉にならない。

颯ちゃん、すぐにパパ来るからね、がんばれ!
目の前にある機械の数字、もう今にも止まりそうだよ、早く来て!

パパの会社から病院までは1時間半。
「お父さんは多分間に合わないから、その分も声かけてあげて」

大丈夫、絶対に大丈夫・・・
ほら、間に合った!颯ちゃん、パパだよ!



 

 
奇跡が起きた。

「颯馬!」
パパがそばに来た瞬間、機械の数字が正常値に変わった。
薬で眠っていて聞こえないはずなのに。

「そっか、パパに会いたかったんだ、そうだね、今日はママ一人だったもんね」
その場にいた誰もがその現実を見ていた。颯ちゃんは大丈夫!

・・・けれど、
しばらくして機械はまた、止まりそうな元の数字に戻っていった。


 

 

もういいよ・・・
いっぱい がんばったんだもんね、
もういいよ 颯ちゃん・・・

心の中のママの声が聞こえたかのように
そして颯ちゃんは 静かに静かに天使になった。



 

 
ベッドの回りのたくさんの機械と
颯ちゃんを繋ぐコードが外されて、やっと颯ちゃんは自由になれた。

「抱っこしますか?」
先生に言われ、久しぶりの抱っこ。
これから先もずっと何も変わらない・・・はずだった。
なのにたった今、この瞬間から全てが変わった。


午後5時30分。
誰にも平凡なはずの いつもの夕方・・・