風の馬〜天使の贈り物〜

写真:颯馬 写真:颯馬 写真:颯馬

 

 いつかまた (written in 1998.6.30 )

 
颯ちゃんが天使になってからのこと。

6月16日、夕方。
家族に電話をかけ、そして先生から経過の説明を受け、解剖を承諾した。
同じ病室だった人達に挨拶もした。
みんなに泣かれてママも泣いちゃった。
颯ちゃんと同じくらい小さいのに、大きな手術してがんばってる子達。
ハンデがあっても、胸に傷があってもがんばってほしい、
乗り越えてほしい、この先 何があったって。

だって心臓の手術ってすごいんだよね。
人工心肺で一度心臓を止めて、終ってからまた動かすんだもん。
ものすごいことだよね。
心臓が悪い子は、これから先も何度か
手術していかなければならないけど、本当にみんながんばれ!


 

 
挨拶をしていたら看護婦さんに呼ばれた。

今度はおじいちゃん、おばあちゃんや
おばちゃんたち みんなに会えたね。
そしてママが抱っこして霊安室まで行き、
先生や看護婦さんもさよならしてくれたね。

その後、解剖のためにママたちは一時帰宅。
夜遅くに颯ちゃんの一番かわいい服を持って、もう一度 病院へ行った。
先生の話を聞き、また霊安室でみんなにさよならしてもらって、
やっとおうちに帰ったのは もう夜中だったね。

生まれた病院を退院した日にほんの数時間いただけの颯ちゃんのおうち。

やっと帰ってきたんだよ・・・おかえり、颯ちゃん。


 

 
一緒に来てくれたみんなもそれぞれの家に帰り、
やっと家族3人だけになった。

パパが初めて絵本を読んでくれたね。
颯ちゃんのために買ったたくさんの絵本の中から
パパが選んだのは“ももたろう”。
初めてなのにパパ とっても上手だったね。
颯ちゃん、嬉しかったよね。
そしていっぱいお話して、3人で眠ったね。

楽しかったね。
絶対に忘れないよね。


 

 

6月17日。
前夜式と告別式は決まっていたけど
それ以外は何も決まっていなかった。
パパとママは朝一番に市の施設へ行って火葬の日を決め、
葬儀社にも寄って、段取りをしてもらうことにした。

その後 お留守番に来てもらっていたおばあちゃんと
パパ、ママ、葬儀社の人で打ち合わせ。
沢山の花や祭壇がセットされ、あっという間に6時。前夜式。

思いもかけず本当にたくさんの人が颯ちゃんのために来てくれたね。
久しぶりに会ったお友達と夜遅くまでお話しちゃったけど、
颯ちゃんもきっと楽しかったよね。


 

 
6月18日。
朝、祭壇にあったカーネーションを
颯ちゃんの回りにいっぱい飾った。
颯ちゃんの棺はとても小さかったから
市に頼んだ霊柩車を当日キャンセルし、
いつものように3人で車に乗ったね。
後ろの席でママは颯ちゃんの棺を抱えて初めて大泣きした。

午後2時火葬。
たった1時間で颯ちゃんがとっても小さくなっちゃった。



 

 

6月22日、午後3時 告別式。
朝一番にママは美容院に行った。
だって少しでもきれいなママでいたいと思ったから。

その後うちで葬儀社の人と打ち合わせ。
前夜式での颯ちゃんの写真はモノクロであんまりかわいくなかったから、
部屋中に引き伸ばして飾ってあったたくさんの写真の中から
一番いいのに変えてもらったんだよね。
うん、かわいいよ颯ちゃん。

告別式にもたくさんの人が来てくれたね。
パパとママは幸せだよね。


 

 
19日から21日まではずっと3人だったね。
小さくなった颯ちゃんをバッグに入れて、
子どものいる家族なら誰でも行くファミレスへ行ったりしたね。
だけど夜中だから他に子どもが全然いなくて、ちょっと淋しかったね。
それからしばらくは どこへ行くのも「颯ちゃんバッグ」で一緒。
今は もう持たないけど、それでもいつも一緒なのは変わらないよ。


そして夏。
颯ちゃんのための霊園探しで県内、都内まで
なんと26ヶ所も見て回っちゃった。
その甲斐あって とてもいい場所が見つかった。
小さいところだけど新しくて、霊園に見えないくらいかわいくて
豪華で、ここが颯ちゃんのお城だとようやく思えた。
そう、ママたちは「お墓」なんていわない。
そこは颯ちゃんの新しい「お城」
だからかっこいいのを作らなきゃと、がんばったんだよ。


 

 
颯ちゃんは光の子、輝き、未来、永遠。

お腹にいた時も生まれてからもママは何もしてあげられなかったけど
颯ちゃんはずっとずっとママの一番の誇りだよ。
ずっとずっと愛してるよ、これから先も永遠に変わらないよ。

病院でいつも暑いって 足でタオルケットを蹴飛ばしていた元気な颯ちゃん、
母乳はほとんど飲めなかったけれど
たくさんたくさんミルクを飲んで大きくなった颯ちゃん、
おばあちゃんの家の洗面所をお風呂代わりに
気持ちよさそうにしていた颯ちゃん・・・


もう二度とぬくもりは帰ってこない。
ママはここにいるのに 颯ちゃんだけがいない。
だけど、光の中で笑ってる颯ちゃんがママには見えるよ。

夜中にしゃっくりが止まらない颯ちゃんを
ずっと抱っこしていてくれた優しいパパや
お腹の中でいつも聞いてたママの心臓の音を忘れないで。

大好きだよ、いつかまた会おうね。